モンブランは静かに暮らしたい。

静かに暮らしたいのに、好きなことの話をすると静かでなくなってしまうブログです。

2022年度の個人的イチオシ本!

 こんにちは、モンブランです。

 これまで僕のブログを読んでいた方々ならお分かりかと思いますが、僕は余暇の時間の大部分を読書に割いています。最近は仕事の方がシャレにならないレベルで忙しくて、読書に回せる時間もかなり削られてはいるのですが。腹立たしい。

 それはさて置き、年度末ということもあって色々と移り変わることが多いかと思います。が、ここで一旦年度を振り返ってみるのも良いんじゃないかとか何とか、御託を並べるのも面倒になってきました。

 今年度読んだ本の中で特にイチオシの本を紹介するぜ!

 

 

 

 

1.青山美智子『月の立つ林で』ポプラ社

 

長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家。

つまずいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。
月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの思いも満ち欠けを繰り返し、新しくてかけがえのない毎日を紡いでいく――。

 

 また青山美智子さんかと言わば言え。

 前作『赤と青のエスキース』は少々異色な作品でしたが、今作は原点回帰した感があります。

 どこにでも居そうな悩む人たちが、些細なきっかけから見方捉え方を変えて一歩ずつ前進していく。そして、彼ら彼女らの物語が思わぬ形で繋がっている。

『月の立つ林で』も、そんな青山さんの持ち味が存分に活かされた小説でした。

 僕は今回の中では特に芸人の話が好きでした。若干ネタバレになりますが、売れない芸人の彼は都合良く物語の最後でブレイクすることはありません。それでも、彼が一生懸命にやっていたことは誰かが見ていてくれて、その誰かを励まし、巡り巡って彼自身を前向きにしてくれる。安易な成功譚になっていないのが、読んでいて自分の中で受け入れやすくて良いと思いました。

 さらに、色んな人たちにポッドキャストで声を届けたタケトリ・オキナとは「一体何者なのか?」「何故ポッドキャストを始めたのか?」という謎の真相にも少しずつ近づいていくところにも、ミステリのような面白さがあります。

 今作の帯にあるような「最高傑作」などの謳い文句には違和感があって、特に青山さんの作品はどれも読んだ人たちにとっての最高傑作になり得ると思っています。

『月の立つ林で』も、青山美智子さんの作品を知らない方は勿論のこと、読んだことがある方にもオススメしたい素晴らしい作品です。

 

 

2.町田そのこ『宙ごはん』小学館

 

この物語は、あなたの人生を支えてくれる

宙には、育ててくれている『ママ』と産んでくれた『お母さん』がいる。厳しいときもあるけれど愛情いっぱいで接してくれるママ・風海と、イラストレーターとして活躍し、大人らしくなさが魅力的なお母さん・花野だ。二人の母がいるのは「さいこーにしあわせ」だった。
宙が小学校に上がるとき、夫の海外赴任に同行する風海のもとを離れ、花野と暮らし始める。待っていたのは、ごはんも作らず子どもの世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活だった。代わりに手を差し伸べてくれたのは、商店街のビストロで働く佐伯だ。花野の中学時代の後輩の佐伯は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれた。ある日、花野への不満を溜め、堪えられなくなって家を飛び出した宙に、佐伯はとっておきのパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれた。その日から、宙は教わったレシピをノートに書きとめつづけた。
全国の書店員さん大絶賛! どこまでも温かく、やさしいやさしい希望の物語。

 

https://monbran-likes-gentle-life.hatenablog.jp/entry/2022/09/13/170907

『宙ごはん』は以前にもブログで書いていたので、新たに書き添えられることがあまりないんですよね。それでも、イチオシ本として挙げるタイトルで真っ先に思い浮かんだのが、この作品でした。

 町田そのこさんは『宙ごはん』について、次のようなコメントを残しています。

明日を生きるためのごはんは美味しいばかりじゃない。今日を乗り越えてゆくための食卓を描きました。

 既に読み終えている一読者の僕は大きく頷きました。

 明日やその先のことなんて簡単に考えられない、今日を生きるのもしんどいような人たちが、それでもごはんを食べてお腹と心を埋めるような、そんな食卓が『宙ごはん』では描かれていました。

 以前にも書きましたが、よくある美味しいごはんを食べて癒されるような日常系ストーリーを期待していたら絶対に痛い目を見ます。

 あらすじは全く違いますが、『渡る世間は鬼ばかり』なみに波瀾万丈です。それだけに、読みごたえのある、「読んで良かった」と思えるような作品でした。

 

 

3.山田風太郎八犬伝(上・下)』角川文庫

 

文化十年、江戸飯田町の小さな家屋で、作家・滝沢馬琴は画家・葛飾北斎に語り出した。宿縁に導かれた八人の犬士が悪や妖異と戦いを繰り広げる『南総里見八犬伝』である。落城寸前の安房・滝田城で、時の城主・里見義実が一縷の望みを愛犬・八房に託したことをきっかけに、里見家の運命が動き出す――。闊達自在な伝奇「虚の世界」と、執筆への執念を燃やす馬琴を綴る「実の世界」を、緻密な構成で見事に交錯させて描いた傑作。

 

 最近のマイブームである山田風太郎作品の中でも、個人的最高傑作がこの『八犬伝』です。新版が去年の11月に発売されて、手に取った途端、瞬く間に作品世界に魅き込まれました。

 原本となる『南総里見八犬伝』と滝沢馬琴は日本史でも学んだ名前でしたが、実際に読んでみようとなると心が折れます。馬琴が28年かけて書き続けた長編なので、ちょっと読んでみようと思った学生時代の自分に「あ、無理」と言わしめた作品でした。

 しかし、山田風太郎版『八犬伝』はシンプルかつ明快に『南総里見八犬伝』が描かれていて、いとも容易く血湧き肉躍る怪異譚に出逢わせてもらえました。

 その一方で、「実の世界」として書かれる滝沢馬琴の姿も、『南総里見八犬伝』の物語としての緊張感の邪魔をせず、返って距離感を縮める効果があったように思います。

 それだけに留まらず、ドキュメンタリーとして面白さもありました。妻には愚痴をこぼされ、息子には厳しく接するあまり萎縮され、ご近所トラブルも絶えない。「文豪=人格者とは限らない」のは近代だけでなく、少なくとも江戸時代にまで遡ることができるかもしれません。それでも、馬琴は大分マシな部類ではあるのですけれど。

 勤勉かつ頑固者な滝沢馬琴から自由闊達な物語が生み出されることを、作中の葛飾北斎も不思議に思っていましたが、「虚の世界」たる『南総里見八犬伝』をよく読み解くと、馬琴のパーソナルな部分が表れているんですよね。

水滸伝』の影響があるところから馬琴の教養を感じさせ、女性や親子関係の描かれ方にも馬琴の価値観が滲み出ています。「虚」と「実」は異なりながらも、決して交わらないものではないのです。

 時代小説と聞いて、文体の違いから読み辛そうと思う方も少なくないと思いますが、騙されたと思って読んでみてください。歴史を娯楽に落とし込む軽妙な文体と巧妙なプロットで、ページを捲る手が止まらなくなること請け合いです。

 

 

 

 さてさて、いかがだったでしょうか。

 ここで挙げたタイトル以外にも、面白かった作品はたくさんあったのですが、特にイチオシしたいものとなるとやはり、この3作になりました。少しでも興味を持ってもらえたなら嬉しいです。

 最近ではアンソニーホロヴィッツ作品に関心を持っていて、少しずつ手を付けているところです。時間もないのにね。

 次年度も労働に負けず、沢山本を読むぞ!

 

 ではではではでは、今回はこの辺で!