モンブランは静かに暮らしたい。

静かに暮らしたいのに、好きなことの話をすると静かでなくなってしまうブログです。

晴れの日も雨の日も本を読みたい(6)

  こんにちは、モンブランです。

 

 本格的に梅雨入りして、晴れの日よりも雨の日の方が増えてきましたね。元々屋外で活動する方ではありませんが、ますます読書が捗るというものです。

 読書の梅雨?

 ……なんだか本が湿ってしまいそうで嫌ですね。元々本と雨は相性が悪い訳ですから。

 

 さて、今回も最近読んだ面白かった本の紹介をしていきたいと思います。

 

 

 1.神林長平『あなたの魂に安らぎあれ』ハヤカワ文庫

 

 

あなたの魂に安らぎあれ

あなたの魂に安らぎあれ

 

 

 日本SFの大家として有名な神林長平さんの長編デビュー作です(上に書かれている発売日はKindle版で、文庫の初版発行日は1986年3月31日)。

 あらすじは以下の通りです。

 

 火星の地下に広がる破沙空洞市では、人間たちが絶望的なまでに単調な日々の暮らしに倦み果てていた。いっぽう放射線が降りそそぐ地上の門倉京では、人間に奉仕すべく造られたアンドロイドたちが、華やかな文明を築きあげていた。だが、その繁栄の陰で終末の予言が囁かれていたーー「神エンズビルが天より下りて、すべてを破壊し、すべてが生まれる」と。

 

 この作品では、アンドロイドが人間に奉仕するというよくある構造こそ崩れていないものの、それぞれに違う文明の中で暮らし、しかもアンドロイドたちの暮らしの方が遥かに優れているというのは画期的です。それぞれの生活が丁寧にわかりやすく描かれ、その重厚なベースがあるおかげで、「アンドロイドに人権はあるのか」「どんなに機械文明が発達しても変わらない人間の性」などの問題が浮き彫りになります。

 やがて人間とアンドロイドは争うことになるのですが、その最中に判明する世界の真実には読んでいてとても驚かされました。目くるめく展開で、いったん読書に集中するとページを捲る手が止まらなくなります。

 

 この小説は新刊を扱う普通に書店でも、ブックオフなどの中古書店でも手に入りにくかったのですが、もし機会に恵まれればぜひ読んで欲しい作品です。

 

 

 

 

2.早坂吝『探偵AIのリアル・ディープラーニング新潮文庫NEX

 

 

 別の作品でこの作者さんのことを知っていたのですが、<物語>シリーズなどでお馴染みのVOFANさんの表紙絵に惹かれて、何となく手に取ってみました。

 

 人工知能の研究者だった父が、「探偵」と「犯人」それぞれの役割を持った双子のAIを遺して、密室で謎の死を遂げてしまいます。その背景には、「犯人」のAI・以相を奪って悪用を試みるテロリスト集団「オクタコア」の陰謀が隠されていました。高校生の息子・輔と探偵のAI・相以は、父の密室の謎、過去の母の死の真相を解くべく協力し、「オクタコア」の陰謀にも立ち向かっていきます。

 ベタベタな展開と癖の強いキャラクター達でライトミステリを思わせますが、謎解きの質は本格ミステリにも劣らない出来です。逆転に続く逆転のストーリーで、いつの間にかこの作品世界に引き込まれてしまいます。

 

 ちなみに、題にある「ディープラーニング」とはAI用語で、人間の脳神経回路を模したニューラルネットワークというものを搭載し機械に学習させることを指し、相以も作中でディープラーニングすることで探偵の能力が向上していきます。彼女の成長物語としても楽しめるかもしれません。

 

 読んでみたら思っていた以上に面白かったので、続編の『犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー』も読んでみたいです。

 

 

 

3.凪良ゆう『神様のビオトープ講談社タイガ文庫

 

神さまのビオトープ (講談社タイガ)

神さまのビオトープ (講談社タイガ)

  • 作者:凪良 ゆう
  • 発売日: 2017/04/20
  • メディア: 文庫
 

 

 ここ最近読んだ中で一番面白かったかもしれません。

『流浪の月』で2020年本屋大賞の大賞を受賞した凪良ゆうさんの作品です。

 あらすじは以下の通り。

 

 うる波は、事故死した夫「鹿野くん」の幽霊と一緒に暮らしている。彼の存在は秘密にしていたが、大学の後輩で恋人どうしの佐々と千花に知られてしまう。うる波が事実を打ち明けて程なく佐々は不審な死を遂げる。遺された千花が秘匿するある事情とは? 機械の親友を持つ少年、小さな子どもを一途に愛する青年など、密やかな愛情がこぼれ落ちる瞬間をとらえた四編の救済の物語。

 

 主人公のうる波を中心とした連作短編集なのですが、登場する人たちの愛情は世間から見れば歪なものばかりです。

 亡き夫の幽霊が居ると言い張っていつまでも一人で暮らすかわいそうな女性。ロボットの親友にしか心を開けない少年。ロリコン。隣で暮らす老夫婦も実は……。

 この作品の中では「正しさ」が重視されているとは思いません。例え世間から見れば歪であったとしても、それぞれに相応しい愛情の形がある。それを受け入れて穏やかに暮らしているから、この物語からは他にはない極上の優しさを感じさせられました。

 

 文庫サイズで文体もとても読みやすくなっていますので、ぜひぜひおすすめしたい作品です。

 

 

 

 

 さてさて、いかがだったでしょうか。

 他にも色々と読んではいるのですが、全部が全部当たりという訳でもなく「紹介するほどのものでもねーな」となることもしばしばです。

 折角だから、ここでは本当に面白かった本のことを書き残しておきたいので、また面白い本にいくつか出会えたらまた書きたいと思います。