モンブランは静かに暮らしたい。

静かに暮らしたいのに、好きなことの話をすると静かでなくなってしまうブログです。

モンブランはミステリがお好き。

 こんにちは、モンブランです。

 当ブログが今回でなんと第60回を迎えました!

 還暦です!元々気まぐれで始めたので飽きたら辞めようと思っていたのですが、まさかここまで続くとは……。

 これからもぼちぼち好きなことを好きなように書き続けますので、今後ともよろしくお願いします。

 

 

 さて、その好きなものについて。前々から読書感想ブログでお気づきかと思いますが、ミステリ小説が大好きなんです。

 過去のブログを読み返してみても、明らかにミステリジャンルに寄っていました。もっと色んなジャンルを読んでいたつもりだったんですけどね……。

 ここ最近も色々な本を読みましたが、ミステリだけでブログ1本分書けそうだったので、続々と、オラオラと語りましょう。はい、どーん。

 

 

1.東野圭吾『透明な螺旋』文藝春秋

シリーズ第十弾。最新長編。
今、明かされる「ガリレオの真実」。

房総沖で男性の銃殺遺体が見つかった。
失踪した恋人の行方をたどると、関係者として天才物理学者の名が浮上した。
警視庁の刑事・草薙は、横須賀の両親のもとで過ごす湯川学を訪ねる。

愛する人を守ることは罪なのか」
ガリレオシリーズ最大の秘密が明かされる。

 

 ドラマ・映画化もされた東野圭吾さんの人気シリーズの最新作です。今度映画化が決まった前作『沈黙のパレード』の文庫も少し前に発売されて、そちらも読んだのですが、今回はこちらの感想を。

 あらすじでは「ガリレオの秘密、真実」が強調されているものの、正直なところ、そちらはあまり気にしていなかったんですよね。

 というのも、シリーズを通して僕が関心を持っていたのは、“解き明かした真実の扱い方”だったからです。

 シリーズ3作目で直木賞受賞作でもある『容疑者Xの献身』で湯川は、殺人を犯してしまった愛する女性を守る為に自らも大きな罪を犯した友人の罪を暴き、その真実を女性に伝えてしまったことで、友人の“献身”を台無しにしてしまいました。

 この一件から湯川は捜査への協力に消極的になりました。それでも、友人の刑事・草薙や内海薫に宥めすかされ手を貸すことになるものの、湯川の中ではずっとしこりになっていました。

 今回の事件では、やや特殊な関わり方をしていて、草薙に手を貸す探偵役でありながら事件の容疑者と思われる人物の関係者でもあり、草薙たちにも何かを隠している様子。

 湯川は事件の真相に辿り着きますが、その真実をどうするのか。

 正しさを求めて救いのない真実を白日の下に晒すのか、決死の想いと愛情によって築かれた優しい嘘を守るのか。

 今作はミステリとしては物足りなさを感じたものの、シリーズを通した湯川の苦悩に対する一つの回答が示されていました。

 次作も楽しみにしています。

 

 

2.綾辻行人『緋色の囁き〈新装改訂版〉』講談社文庫

名門・聖真女学園高校の「開かずの間」で、少女が死んだ。「魔女」という謎の言葉を残して―。美しくも残酷な連続殺人劇の、それが幕開けとなる。転入生・冴子の心にひそむ“赤い記憶”の秘密。夜ごとに少女たちを襲う殺人者の正体は?鮮血と狂気に彩られた「囁き」シリーズ第一弾、待望の新装改訂版。

 

十角館の殺人』から始まる館シリーズや『Another』で有名な綾辻行人さんのもう一つの人気シリーズ、「囁き」シリーズの1作目が新装改訂版が最近になって発売されました。

 旧版を高校生くらいの時に読んだのですが、久しぶりに読んでみたくなって買ってみました。

 綾辻さんの作家としての強みの一つが、ミステリの舞台づくりだと、僕は思っています。

 今回の舞台は外界から隔離された名門女子校。表向きは華やかな女生徒たちも裏では誰にも言えない心の闇を抱えておりーーという、非常に美味しいシチュエーションとなっております。

 綾辻さんの作品自体読むのが久しぶりだったのですが、相変わらず読みやすい文章でありながら、作品世界の雰囲気に呑まれるような楽しい読書でした。

 ちなみに、ミステリというよりもサスペンスホラーの色が強く、謎解きをしようと読むとアンフェアに感じてしまうかもしれません。

 ツンデレせずに素直に読むのが一番楽しめるんじゃないかと思います。

 

 

3.ジョン・ディクスン・カー『三つの棺(新訳版)』ハヤカワ・ミステリ文庫

【オールタイム不可能犯罪ミステリ・ランキング第1位! 】 ロンドンの町に静かに雪が降り積もる夜、グリモー教授のもとを、コートと帽子で身を包み、仮面をつけた長身の謎の男が訪れる。やがて二人が入った書斎から、銃声が響く。居合わせたフェル博士たちがドアを破ると、絨毯の上には胸を撃たれて瀕死の教授が倒れていた! しかも密室状態の部屋から謎の男の姿は完全に消え失せていたのだ! 名高い〈密室講義〉を含み、数ある密室ミステリの中でも最高峰と評される不朽の名作が最新訳で登場!

 

 ようやく手に入った!

 ハヤカワ文庫は文庫でもちょっとお高めなので、状態の良い中古で探していたのですが、中々見つからなかったんです。探し始めてかれこれ6年くらいになるでしょうか。もう諦めて新品で買ってしまおうかと心が折れかけていたところで、ようやく見つけることができました。

 で、肝心の本編についてなのですが、ミステリ小説の中でも有名な古典作品の一つで、こと密室ものの中では真っ先に挙がるタイトルではないでしょうか。

 と言うのも、あらすじでも触れられている“フェル博士の密室講義”は、密室トリックについて詳細に整理され、それでいて明快に示されていて、発表後約100年経った今でもここまでわかりやすいまとめを見たことがありません。

 密室講義と言うと堅苦しく聞こえるものの、蓋を開けてみれば結構おふざけに満ちています。

 初っ端からフェル博士は自分たちがミステリ小説の登場人物だと明言する、所謂メタフィクションネタが飛び出しています。

 しかも、この密室講義は本編の解決編直前に挿入されているものの、本編の内容とは殆ど関係ありません。ハドレイ警視も「面倒だから辞めようや」みたいなことを言っているくらいです。これもまたメタネタですね。

 講義での密室トリックの分類はとてもわかりやすいですが、事件のトリックはかなり複雑で初見では理解できずに、何度か遡って読み返す必要がありました。せめて棺が三つじゃなくて二つだったら……。

 

 

4.相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』講談社

★★★★★
★第20回本格ミステリ大賞受賞
★このミステリーがすごい! 1位
本格ミステリ・ベスト10 1位
SRの会ミステリーベスト10 1位
★2019年ベストブック
さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補
あまりの衝撃的結末に続編執筆不可能と言われた、5冠獲得ミステリ『medium 霊媒探偵城塚翡翠』待望の続編!

すべてが、反転。

あなたは探偵の推理を推理することができますか?

綿密な犯罪計画により実行された殺人事件。アリバイは鉄壁、計画は完璧、事件は事故として処理される……はずだった。
だが、犯人たちのもとに、死者の声を聴く美女、城塚翡翠が現れる。大丈夫。霊能力なんかで自分が捕まるはずなんてない。ところが……。
ITエンジニア、小学校教師、そして人を殺すことを厭わない犯罪界のナポレオン。すべてを見通す翡翠の目から、彼らは逃れることができるのか?

ミステリランキング五冠を獲得した『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、待望の続編は犯人たちの視点で描かれる、傑作倒叙ミステリ中編集!

invert
in・vert
【他】…を逆さにする,ひっくり返す,…を裏返しにする;
〈位置・順序・関係を〉反対にする;〈性質・効果などを〉逆転させる;
inverted detective story:
倒叙推理小説

 

 前作の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は前述の通り、かなり話題を攫った作品だったのですが、僕は2作目の今回の方が好きでした。

 1作目は作品を通した大きな秘密の都合上、終盤に内容が詰め込まれ過ぎていて、読んでいて苦痛でした。読後感も良くありませんでしたし。

 ただ、今作は城塚翡翠という探偵役の持ち味が、倒叙ものに切り替えられたことで、読みやすく活かされていました。

 倒叙についても前述のあらすじで単語の説明はされていますが、要は犯人視点で物語が進み、完全犯罪を目論んだ犯人のアリバイやトリックが探偵によって崩されていく話のことです。テレビドラマでは旧くは『刑事コロンボ』、日本の有名どころだと『古畑任三郎』あたりがこのスタイルを取っています。

 1作目で城塚翡翠の本性を知っている読者は、今作を読んでいて「うわ、この女……」と、彼女の狡猾にして大胆な振る舞いをより一層楽しめることでしょう。

 1作目は1作目で良かったものの、僕は2作目でようやくこのシリーズが好きになりました。

 続編が雑誌掲載されているらしいので、新作の刊行を楽しみにしています。

 

 

5.知念美希人『硝子の塔の殺人』実業之日本社

雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。
地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。
ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、
刑事、霊能力者、小説家、料理人など、
一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。
この館で次々と惨劇が起こる。
館の主人が毒殺され、
ダイニングでは火事が起き血塗れの遺体が。
さらに、血文字で記された十三年前の事件……。
謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。
散りばめられた伏線、読者への挑戦状、
圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。
著者初の本格ミステリ長編、大本命!

 

 70年代頃まで日本のミステリは松本清張に代表された社会問題に切り込んだ“社会派”が主流となっており、無人島や吹雪の山荘などを舞台にした古典タイプのミステリは下火にありました。

 そこに再び古典を“本格”として、島田荘司綾辻行人を皮切りに現代に呼び戻した作品群が“新本格”と呼ばれ、古式ゆかしきスタイルのブームが再燃することになります。

 その後も伝奇要素と組み合わさった“新伝奇”という派生が登場したり、名探偵コナンなどの推理漫画がヒットしたりして、ミステリの古典が愛好家以外にも浸透していきました。

 しかし、不景気や甚大な自然災害を経て、再びミステリのフォーカスは社会に向けられるようになります。同時に、“新本格”を打ち出した面々の作品までもが旧いものと見做され、執筆ペースが落ち込んでいったこともあり、再び廃れようとしています。

 

 …………何故急に日本の近代ミステリの歴史を振り返り始めたのかと言いますと、『天久鷹央シリーズ』や『ムゲンのI』などの医療ミステリで有名な著者がど直球の本格ミステリを書いてきたからです。

 舞台はあらすじからもわかる通り、外界から隔離された館もの。華々しいプロフィールを持つ人物たちが次々と殺され、ダイイングメッセージと過去の事件との関係。何度も読んできた王道展開に、ミステリファンたちはきっと真相を追いながらも懐かしさを覚えることでしょう。

 しかも、探偵役の碧月夜が熱心なミステリファンで、というよりもキツいミステリオタクなせいで、嫌でもミステリの歴史を振り返らざるを得ません。“後期クイーン問題”など、確か前にブログで書いたことがあったような気がしますが、普通の人からしたら「何だそれは?」となるでしょう。正直ミステリファン以外は置いてけぼりにされてしまいます。

 ただ、著者のプロットの妙が光る今作は、本格ミステリを良く知る人ほど足元を掬われます。僕も読んでいて小さな違和感はあったものの、事件の“本当の真相”には驚かされました。

 “新本格”の担い手の一人である島田荘司は今作の帯で、次のようなコメントを出しています。

当作の完成度は、一斉を風靡した
わが「新本格」時代のクライマックスであり、
フィナーレを感じさせる。今後このフィールドから、
これを超える作が現れることはないだろう。

 今作は絶賛していると同時に、“新本格”の終わりを明言しています。「個人の感想ですよね?」と言われたらそれまでですけれど、僕の個人の感想を添えさせてもらえるならば、あくまで一旦終わっただけだと思うのです。

 ブームは一度終わっても再燃することもしばしばで、流行り廃りは繰り返すものだと思うのです。バブル期の曲がとある高校のダンスクラブきっかけに再ヒットした、なんてこともありましたよね。現に、“新本格”も古典ミステリのブームが再燃したものであり、そのブームが更に再び訪れないとは誰も断言できません。

 その内また火付け役となる名作がひょっこりと現れるんじゃないでしょうか。

 ブームが全てとは言いません。それでも、どうしようもなく人を惹きつける魔力を持った作品が、これからも書かれる筈です。

 だから、この『硝子の塔の殺人』を読んで一定の満足感を覚えながらも、僕は更なる面白いミステリの登場を、いちファンとしてナイフとフォークを持ちながら待ち望みたいと思います。

 

 

 さてさて、いかがだったでしょうか。

 ミステリに絞っても結構本の話ができましたね。むしろ、ミステリ好きっぷりが浮き彫りになった感があるでしょうか。

 僕の読書経歴の大部分を占めていることは間違いありませんが、ミステリだけで僕の読書観ができていると思われるのは心外です。

 好みや偏りはあれど、世の中は色んなジャンルの面白い物語に満ち溢れています。

 

 という訳で(?)、次回「モンブランライトノベルがお好き。(仮)」でお会いしましょう!

 予定は未定だけどね!