モンブランは静かに暮らしたい。

静かに暮らしたいのに、好きなことの話をすると静かでなくなってしまうブログです。

有名作家への入り口、或いは読書感想文のお供に。

 こんにちは、モンブランです。

 夏休みの宿題の定番の一つはやはり読書感想文ですよね。

 僕は普段読んでいる本から適当に選んでチャチャっと書き上げていましたが、普段本を読む習慣のない人にとっては、読まされる上に書かされるという正しく苦行だったことでしょう。

 さらに、その前提として本を選ぶ作業がありますね。課題図書から選ぶのもアリですが、ぶっちゃけた話、年度によってかなり当たり外れがありますから、自由に面白い本から選びたくなる人も少なくないはず。

 そこで、面白い本を求めていると、「面白い本≒売れている本」という図式が世に蔓延っている為、自然と有名作家の作品に偏りがちになるような気がします(僕自身の意見ではありませんが)。

 が、有名作家たちの殆どが多作で、「とりあえず最新刊を……」と手に取ってみてもシリーズ物の一冊だったりして、切り良く一冊を読みたいという需要に答えてくれないこともしばしば。

 そこで、今回は有名作家の作品の中でも、作品が一冊(もしくは上下巻)で完結するような、手に取りやすいものを紹介してみたいと思います。

 

 

東野圭吾さん

 

『時生』講談社文庫

 

 

「あの子に訊きたい。生まれてきてよかった?」
悩む妻に夫が語る、過去からの伝言

不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつあるとき、宮本拓実は妻に、20年以上前に出会った少年との想い出を語りはじめる。どうしようもない若者だった拓実は、「トキオ」と名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人・千鶴の行方を追った――。過去、現在、未来が交錯するベストセラー作家の集大成作品。

 

 ベストセラーランキングで名前を見ない時はないであろう、売れっ子作家の東野圭吾さん。僕も東野圭吾さんの著書はほぼ全て読んでいるくらいにはファンです。

 ガリレオシリーズや加賀恭一郎シリーズなど、映像化した人気シリーズもありますが、今回みたいな趣旨で紹介したい作品で真っ先に思い浮かべたのは、この『時生』でした。ちなみに、『白夜行』も東野圭吾作品を語る上では欠かせないのですが、文庫版でも鈍器のように分厚いボリュームなので、今回はパス。

 まず、若い頃に息子と会ったことがある、という語り出しからして面白いですよね。勿論、ドラえもんセワシくん(息子じゃなくて孫の孫だけど)と違って、時生は若かりし頃の拓実に自身が息子であることを名乗れる筈もなく、そもそもどうして時生は過去の父と対面することになったのか。

 そんな不思議が付き纏いつつ、拓実と共に突然姿を消した、彼の恋人・千鶴の行方を追うことになります。

 ……これは冒頭でわかることなのでネタバレにはなりませんが、時生の母にして現在の拓実の妻の名前は麗子。千鶴ではないのです。

 この時点で、拓実はもしも行方不明になった千鶴を見つけたとしても、千鶴と結ばれることはないことが読者にはわかります。

 それでも読んでいて惹きつけられるのは、謎を追うプロット運びの巧みさと、若い頃の拓実の成長にあると思います。加えて、拓実と時生のやり取りも面白いですね。若い頃の拓実にとっては、素性が謎に包まれている筈なのに親しみを覚えてしまう時生少年は良き相棒となっていましたし、若い頃は恋人の脛を齧っていたクズ野郎だった父を目の当たりにした息子・時生の心情は想像に難くありません。

 読後感の良さも相まって、とてもオススメな作品です。

 

 

 

 

宮部みゆきさん

 

 

(上巻)

北は瀬戸内海に面し、南は山々に囲まれた讃岐国・丸海藩。江戸から金比羅代参に連れ出された九歳のほうは、この地に捨て子同然置き去りにされた。幸いにも、藩医を勤める井上家に引き取られるが、今度はほうの面倒を見てくれた井上家の琴江が毒殺されてしまう。折しも、流罪となった幕府要人・加賀殿が丸海藩へ入領しようとしていた。やがて領内では、不審な毒死や謎めいた凶事が相次いだ。

(下巻)

加賀様は悪霊だ。丸海に災厄を運んでくる。妻子と側近を惨殺した咎で涸滝の屋敷に幽閉された加賀殿の祟りを領民は恐れていた。井上家を出たほうは、引手見習いの宇佐と姉妹のように暮らしていた。やがて、涸滝に下女として入ったほうは、頑なに心を閉ざす加賀殿といつしか気持ちを通わせていく。水面下では、藩の存亡を賭した秘策が粛々と進んでいた。著者の時代小説最高峰、感涙の傑作

 

「上下巻もあるじゃねーか!」というツッコミは呑み込んで、まあちょっと聞いてくださいよ。

 宮部みゆきさんも著書が多く、有名シリーズもあって絞るのがとても難しかったです。尚且つ、現代ミステリでデビューした宮部さんは、ファンタジーや時代小説など様々なジャンルで活躍されているので、余計に一作品を選ぶのが難しかったです。

 が、敢えてここは、慣れていない人は尻込みしそうな時代小説の中から紹介させてください。

『孤宿の人』は流刑となった加賀殿が、丸海藩に入領する前後から物語が始まります。流刑になったとは言え、幕府の要人ゆえに丁重に扱わなければならないという、所謂厄介払いを丸海藩は押し付けられた訳です。

 琴江の毒殺から端を発して藩内の凶事が続くのと同時期だった為、「加賀様が災厄を運んでくる」という声が人々から上がりますが、勿論そんな訳がありません。穏やかな暮らしの中に隠された悪意が噴き出しただけのことで、火種のないところに火の手は上がらないのです。

 ここまで読んでいるととても暗い話のように思えますが、宮部みゆきさんの作品は必ず最後に救いのあるものが多く、『孤宿の人』もその例外ではありません。

 ほうの名前を漢字にすると「呆」。「阿呆」の「呆」です。こんな酷い名付け方をされた上、捨て子同然で丸海藩に置き去りにされた彼女は、さらに慕っていた琴江を殺され、置かれていた井上家からも出なければならないという、これでも不幸続き。けれども、ほうは作中で誰よりも純粋な心とものの見方を持っている為、それに救われる人々も居ます。

『孤宿の人』は様々な視点で物語が進んで行きますが、その中でも最も“弱い”ほうのことも念頭に置いた上で、読んでみて欲しいです。

 時代小説は言葉が難しそうで読めない、と感じる人は騙されたと思って、冒頭の「海うさぎ」と「波の下」の章だけでも読んでみてください。ページを捲る手を止めたくなくなっている筈ですから。

 宮部みゆきさんという物語の名手が巧みに綴る人間の罪深さと優しさを、食わず嫌いせずに堪能してみてください。文末の児玉清さんの解説も併せてオススメです。

 

 

 

 

 

 いかがだったでしょうか。

 本当はもっと多くの作家の作品を取り上げる予定だったのですが、二人だけで息切れしてしまいました。

 今後書くかどうかはかなり怪しいので、せめて作家名と題名だけでもリストアップさせてください。

辻村深月『凍りのくじら』

上橋菜穂子『鹿の王』

森見登美彦夜は短し歩けよ乙女

伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー

池井戸潤空飛ぶタイヤ

司馬遼太郎項羽と劉邦

 あくまで、僕が思う“有名作家への入り口にちょうど良い作品”なので、異論は多々あるでしょう。それらを否定する気は毛頭ありません。各々の出会いと、自身との嗜好の一致があって然るべきですから。

 肝心なのは「出会い」があることそれ自体

 このブログがどんな人にどれだけ読まれているかはわかりませんが、より多くの方の読書の「出会い」になってくれれば幸いです。

 

 ではでは、今回はこの辺で!